映画『ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版』先行上映、呉美保監督(『ふつうの子ども』)&月永理絵登壇のアフタートーク、オフィシャルレポート到着!

2025/12/9

©1+2 Seisaku Iinkai

『牯嶺街少年殺人事件』の巨匠エドワード・ヤンが最後に遺した集大成ヤンヤン 夏の想い出が公開から四半世紀を経て4Kレストア化され、ついに12月19日に日本で公開される。

 

マーティン・スコセッシをはじめ、濱口竜介、三宅唱、石川慶、山中瑶子、岨手由貴子・・・といった、名前を挙げればきりがないほどに世界中のクリエイターたちからお熱狂的支持を集め続けているエドワード・ヤンだが、最新作『ふつうの子ども』が話題の映画監督・呉美保監督もその1人。

 

『ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版』の公開に先駆けて12月5日にBunkamura ル・シネマ渋谷宮下にて行なわれた先行上映会では、呉美保監督と、数々のメディアで映画評やコラムを執筆する映画ライター・編集者の月永理絵との登壇トークイベントが実現した。今回はそのオフィシャルレポートをお届けする。

 

173分という映画を鑑賞し終えて、充足感に満ちた様子の会場内。そんな観客の前に立った呉監督は「偉大なるエドワード・ヤン監督作品の中でも一番好きな映画の……もちろん全部の作品が好きなんですが。このような場に立たせていただけることが本当に幸せです」と感慨深い様子であいさつ。

 

大学卒業後は、大林宣彦監督のスクリプターとして働いていたという呉監督だが、2000年12月に本作が劇場公開された頃は非常に多忙だったため、当時は劇場で観る機会を逃してしまっていた。そのため初鑑賞はDVDだったというが、その後も何度かDVDで見返していったという。そんな中で、2010年代に35mmフィルムでのリバイバル上映が行われ、劇場で鑑賞することが叶った。そしてこのたび、あらためて4Kレストア版で鑑賞することになるなど、折に触れて本作に接してきたという。

 

「この間も4Kレストア版を観たんですが、本当に一瞬でしたね」と振り返った呉監督は、「自分の中でのいい映画の基準というのが、映画を観ている最中にトイレに行きたくならないか、眠くならないか、というところにあるんですけど、3時間近くとても静かな映画なのに一瞬で終わったように感じられて。ビックリしました」と笑ってみせると、「本当に観るたびに発見があるんです」と付け加える。

 

一方、この日の聞き手を務めた月永氏が本作を鑑賞したのは2001年か2002年頃で、ちょうど大学に入ったばかりの頃だった。「その時、実はそんなにピンときてなかったところがありまして。いい映画だけど思ったより地味だな、と思っていたんです。それこそ当時、VHSで見た『牯嶺街少年殺人事件』の方がガツンときていたくらい」と振り返るも、「だけどそれから年を経て、あらためて見直した時に、本当にぼう然とするくらいに感動してしまった。やはり年を経てから観たことで初めて再発見できることもあるんだなと思いました」と明かす。

 

そしてその意見に深くうなずいた呉監督。劇中では、ヤンヤンの父親NJが若き頃の初恋の相手シェリーに再会。過去のすれ違い、ほろ苦さを思い出し、心が揺らぎながらも、ふとした拍子に「愛していた人は君だけだ」と告げるシーンがあった。そのシーンについて「今回、改めて4Kレストア版になって観させていただいた中で一番感情が動いたシーンはそこでした。4Kの鮮明さに圧倒されつつも、それ以上に物語にグッと入っていったんです」と語る呉監督だが、その理由を説明していくうちに、その言葉には次第に熱が帯びてくる。

 

「それはつまり何ですか? 自分の妻のことは一度も愛さなかった、というようにも捉えるじゃないですか。昔と違って、わたしも一応既婚者なので。まさかの妻の立場で見てしまったと。今まではどちらかというと娘目線だったり、もしかしたら愛人目線だったりで、『痛いな、ヒリヒリするな』という風に見ていたのが、年を重ねることで明確な“怒り”に変わっていった。その時に一番感情が動きました。それが4Kレストア版での発見でした」と力説すると会場からは思わずクスクス笑いが。

 

そして呉監督のNJに対する怒りはさらにヒートアップしていく。「そういう視点で見ていくと、あの過去の初恋の人のことは何度か抱きしめたり、手を繋いだりもしているんですけど、たぶん奥さまのことは一度も触れてなかったんじゃないかなと。奥さんが帰ってくる時にもふたりの間には距離があったし。ハグのひとつでもすればいいのに……後半はもう“怒り”ベースで観ていました。本当に観れば観るほど発見がすごい映画なんです」とたたみかけて、会場を笑わせた。

 

その後も映画監督の視点で、実際の本作のシーンをひとつひとつ取りあげながら、次々と語っていく呉監督。それは前のシーンの音を、次のシーンに食い込ませるようにした音の使い方、複数のエピソードをうまく交錯させた編集の巧みさ、ガラス越しのカットを通じて孤独を演出した撮影など仔細に渡っており、そしてそれらの技法のひとつひとつが、物語を伝えることを助け、的確に作用していると指摘する。

 

その後もひとつひとつのシーンを思い出しながら、「ここが良かった」「あそこのシーンはすごい」といった話が次々と飛び出すふたり。そんな中で「この日本のタイトルからすると、ヤンヤンという少年の映画のようにも思えるけど、意外とヤンヤンって映画の中では喋らないし、全シーンに出てくるわけでもない。むしろ大人たちのドラマの方がどんどん動いていきますけど。ここぞという時にヤンヤンのすごくいいシーンがやってくるんですよね」と指摘した月永氏。

 

「そうですね」とうなずいた呉監督は、「エドワード・ヤン監督に息子さんが生まれたのはこの映画が公開された2000年なので、撮影の時はまだお子さんはいらっしゃらなかった。それでもご自身のさまざまな幼少期の記憶がきちんと体の中に染み付いていて。登場人物をちゃんと多面的に、複眼力を持って描かれているのかなと思うんです。本当に小さい子からおばあちゃままで、全く違和感がない。すべての人が生きていて、すぐそこにいる人かのように感じました」と指摘する。

 

そんな中、呉監督は、自身の最新作『ふつうの子ども』を制作する際に、『ヤンヤン 夏の想い出』からの影響があったことを明かす。「今回のレストア版のポスターも本当に素敵なデザインで大好きなんですけど、その前のポスターでは、先生を睨んでいるヤンヤンの顔が写し出されていたんですけど、その表情がすごく強烈で、ビジュアルがとにかく大好きだった」という呉監督。

 

今回の『ふつうの子ども』で寄りのカットをいろいろと撮っていた時にも「プロデューサーとも『これはヤンヤンみたいじゃない?』なんて話をしていました。それはビジュアルだけじゃなく、子どもを通して社会を描くという意味でも、目指していたところだったので。計らずも私の指針になっていました。もちろんストーリーは全然違うし、それこそ(『ふつうの子ども』は)子ども中心の世界の話ではあるんですけれども、自分の息子たちを見ていても、子どもの社会と大人の社会は地続きなんだということを常日頃感じさせられているので。そういう意味では目指すべきところだったのかなと思っています」

 

そして呉監督はエドワード・ヤン監督が生前残した言葉に触れて、非常に染みたという。それは「この映画を観た時に、偉大な監督の映画を観たと思ってほしくない。友達とおしゃべりをしているような感覚で見てほしい」という言葉だったといい、「私も映画を作る時は高尚なものを作ろうとは全く思っていなくて。自分や周りの人たちの人生の心の機微をすくい上げて、自分の年齢で描けることを積み上げていきたいと思っているんです」。

 

そして呉監督は「エドワード・ヤン監督の映画は本当に新しく感じられる。もちろん時代の風景や、衣装や装飾などは懐かしいなと思うところもありましたけど、でもそこに流れている空気感というものは、年月を経ても常に洗練されていて。今見ても新しいと思える感覚であり、尚かつ普遍的なものなんです。それは彼の他の映画もそう。これはすごいことだなと思いますね」と観客に語りかけ、アフタートークは終了した。

 

『ヤンヤン 夏の想い出』は、少年とその家族が経験するひと夏の出来事を、時に残酷で時にまばゆいほどの映像で描いた物語だ。台湾と日本合作で製作され、台北と東京、熱海を舞台としイッセー尾形や津田健次郎ら日本の俳優陣も参加している。

 

本作は2000年に第53回カンヌ国際映画祭にて監督賞を受賞した他、東京国際映画祭、トロント国際映画祭等世界の映画祭にて上映され賞賛を集めた。そして2016年の英国BBC主催の「21世紀の偉大な映画ベスト100」の第8位に選出、2023年にはハリウッド・レポーターによる「21世紀の映画ベスト50」で堂々の1位に輝き、北米のレビューサイトRotten-Tomatoesでは現在批評家からは97%フレッシュ、一般のユーザーからは91%という高スコアを維持(25年8月27日時点)しており、色褪せぬどころか、時を経てなおその評価が高まり続けている作品だ。この比類なき傑作が4Kレストア化され、2025年にカンヌに帰還。第78回カンヌ国際映画祭クラシック部門のオープニング作品としてお披露目され、惜しみない賛辞を受けた。

 

本作は12月19日より、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座、109シネマズプレミアム新宿ほかにて全国公開となる。台北と日本を舞台に繰り広げられるある家族の一生忘れられないひと夏の物語が、呼吸を忘れるほどの美しさとなってスクリーンに甦る。公開まで今しばらくお待ちいただきたい。

 

STORY
小学生のヤンヤンは、コンピュータ会社を経営する父NJ、そして母、姉、祖母と共に台北の高級マンションで幸せを絵に描いたような暮らしをしていた。だが母の弟の結婚式を境に、一家の歯車は狂いはじめる。祖母は脳卒中で入院。NJは初恋の人にバッタリ再会して心揺らぎ、母は新興宗教に走る……。そしてNJは、行き詰まった会社の経営を立て直すべく、天才的ゲーム・デザイナー大田と契約するため日本へと旅立つのだが。

 

映画『ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版』

©1+2 Seisaku Iinkai

 

STAFF
監督・脚本:エドワード・ヤン
撮影:ヤン・ウェイハン
編集:チェン・ポーウェン
録音:ドゥー・ドゥーツ
美術・音楽:ペン・カイリー

 

出演
ウー・ニェンツェン
イッセー尾形
エイレン・チン
ケリー・リー
ジョナサン・チャン

 
2000年|台湾・日本合作映画|中国語・英語・日本語|カラー|173分
|原題:YI YI|英題:YI YI: A ONE AND A TWO|字幕翻訳:石田泰子
|配給:ポニーキャニオン 
©1+2 Seisaku Iinkai

 

インフォメーション
公式HP : https://yi-yi.jp/
ムビチケオンライン販売ページ:https://ticket.moviewalker.jp/film/090951?from=official
公式X : @YIYI_4K

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